かわいい若手

会社の会議室へ向かっていたら、前方から女性が歩いてきた。

いつも通りすれ違いざまに会釈をすると、「お疲れさまです」と返ってきた。
女性はこちらを覗き込んでいるような視線で、少し照れながら口角を上げていた。その初々しい雰囲気からすぐに新入社員の子だとわかった。お互いの肩が過ぎようとしていた瞬間になんとか私も「お疲れさまです」を差し込んだ。

しまった。感じ悪かったかもしれない。というか、私もつい数日前まで新入社員だったのにいつの間にこんな省エネモードになってしまったんだ。わざわざ声を発し笑顔までつけて挨拶してくれた新入社員の子への申し訳なさと、見習わねばと身の引き締まる気持ちになった。

そういえば先日のお花見で、広報の方が「新卒はいるだけでエネルギーもらえるんだよ。こっちも引き締まるの」と言っていたが、なるほどこういうことか。引き締まるのもそうだが、おそらく緊張や不慣れから丁寧になっている言動も、接するだけでこちらは嬉しくなってしまう。かなりの威力があるので、春から新入社員になった子はその魅力を余すことなくつかいたおしてほしい。

 

さて私は春から「新入社員」の称号を剥奪されたのだが、初々しい新入社員の子と接したことで、もう少しかわいい若手になった方がいいのではないかという気がしてきた。この手のものは思い立ったが吉日なので、早速最近仲良くなった社員さんに話しかけてみることに。

とても優しい方なので、忙しい手をとめて新卒2年目の他愛もない雑談に付き合ってくれた。そして「スタバのチケットが余ってるので、今度消化するの手伝ってください」と、奥ゆかしい言葉でコーヒーブレイクにまで誘ってくださった。発端が「かわいい若手になりたい」だったことは絶対に黙っておこう。

 

「新入社員」の称号は剥奪されてしまったが、とはいえ2年目なので意外と私もまだ周囲へエネルギーを与えられる存在かもしれない。そうでなくても、普段関わりのない人と話すのは新しい発見が多くて楽しいのでこれからもちょこちょこ色んな人に話しかけてみようと思った。